労務相談Q&A

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有給休暇取得時の賃金から通勤手当を控除できますか?

退職時に有給休暇をまとめて取得することが見受けられます。その際、休暇中の賃金から通勤手当を控除することができるでしょうか。この問題は、控除することができる、控除することができないと意見が分かれています。
通勤手当は、労基法等で支給を義務付けられた賃金ではないので、労使が話合いで支給条件を決めることができます。就業規則等で要件が定められていれば、それに従って支払う義務が生じます。

結論的には、『根拠規定がなければ不可』です。つまり、就業規則等に通勤手当は実際に出勤した日についてのみ支給する旨の支給基準があらかじめ明確にされていることが必要であることに留意する必要があります。

労基法第39条第6項では、年次有給休暇中の賃金については、
①労働基準法による平均賃金 ②所定労働時間労働した場合に支払われる通常の賃金 ③健康保険の標準報酬日額に相当する金額のうちどれか1つを就業規則等で選択することで決定することができます。
いずれの計算方法を取る場合も、通勤手当を控除して支払うことはできません。

しかし、通勤手当については、就業規則上出勤日のみに支払うことが明記されていれば、本来実費弁償的な性格のものと考えられることから、年次有給休暇を取得した日についてそれを支給しないこととしても労基法に抵触しないと考えられます。
すなわち、年次有給休暇を取得した日について通勤手当が支払われなかったとしても、年次有給休暇を取得したために不利益を被ったとみるべきではないと考えられるからです。

《規定例》
第○条(通勤手当)
1.交通機関を利用して通勤する者に対し、最も合理的な通常の経路および方法による運賃実費を支給する。
2.1賃金支払期間において、実出勤がなく、全日有給休暇の取得が認められた場合、通勤手当の支給はしない。
3.1賃金支払期間において、有給休暇の取得が認められたため実出勤日数が少ない場合、定期代と実出勤日数に応じて支払う通勤手当の実費を比較し、いずれか低い方を支給する。

パートタイマーに対しても、正社員と同様に年次有給休暇を与えなければなりませんか。

パートタイマーに対しても原則として年次有給休暇を与えなければなりませんが、付与すべき日数は、所定労働時間や所定労働日数により正社員と異なることがあります。
1週間の所定労働時間が30時間未満であって、かつ、1週間の所定労働日数が4日以下または1年間の所定労働日数(週以外の期間によって所定労働日数が定められている場合)が216日以下の労働者に付与すべき年次有給休暇の最低日数は、下記の日数でよいとされています。

週所定
労働日数
1年間の所定
労働日数
勤続年数
6か月 1年
6か月
2年
6か月
3年
6か月
4年
6か月
5年
6か月
6年
6か月
以上
4日 169日~216日 7日 8日 9日 10日 12日 13日 15日
3日 121日~168日 5日 6日 6日 8日 9日 10日 11日
2日 73日~120日 3日 4日 4日 5日 6日 6日 7日
1日 48日~72日 1日 2日 2日 2日 3日 3日 3日

上記のとおり、年次有給休暇の日は、一定日数まで、勤続年数に応じて順に増えていきます。
この点に関して、パートタイマーが期間の定めのある契約により雇用されており、当該契約が更新されている場合の勤続年数の考え方が問題となることがあります。

この場合、契約期間が途切れずに契約が更新されていくときには最初の契約の始期から勤務期間が継続しているとみるべきでしょう。
また、たとえ各々の雇用契約期間の終期と始期との間に間隔がある場合でも、当該間隔が短く、実質的には雇用関係が継続しているとみられるような場合には、最初の契約の始期から勤続期間を計算すべきと言えます。

解雇予告の30日は休日を含めた暦日ですか?

労働基準法第20条は、「使用者は、労働者を解雇しようとする場合においては、少なくとも30日前にその予告をしなければならない。30日前に予告しない使用者は、30日分以上の平均賃金を支払わなければならない。」と規定しています。
この30日間は労働日ではなく暦日で計算されますので、その間に、休日または休業日があっても延長されることはありません。

また、解雇予告がなされた当日は30日に算入されず、その翌日から計算され、期日の末日をもって期間の満了となります。したがって、たとえば9月30日をもって解雇するためには、遅くても8月31日までに「9月30日付けで解雇する」旨本人に予告しなければなりません。

解雇の予告は、少なくとも30日前と決められており、30日前であればこれより長くても差し支えありません。30日前の予告は、いつ解雇されるのか明確になるように解雇の日を特定して予告しなければなりません。

予告期間の計算については、労働基準法はなんら規定されていませんから、民法の一般原則によることになります。民法第140条には「期間ヲ定ムルニ日、又ハ年ヲ以テシタルトキハ初日ハ之ヲ算入セス」と規定され、解雇予告がなされた当日は算入されず、その翌日から計算され、期間の末日をもって期間の満了となります。

また、労働基準法第21条は、「試用期間が14日を超えて引き続き使用されるに至った場合は解雇予告が必要」と規定しています。つまり、試用期間中の労働者に解雇予告手当が適応されるのは暦日で15日からです。
つまり採用から14日までは解雇予告手当は必要ありませんが15日以降は対象者となります。ここでいう「14日」も暦日であり、労働日ではありません。
14日を超えた試用期間中の労働者を解雇する場合は、暦日で30日前に予告する必要があります。この30日に満たない日数に解雇する場合に足らざる日数分の解雇予告手当が必要となります。

年次有給休暇の取得は繰越分と新規付与分のどちらが優先されますか?

年次有給休暇の繰越分と新規付与分のどちらから取得させるべきかについて労働基準法に定めはありませんが、取得期限が先に到来する繰越分から取得させるのが一般的です。
ただし、年次有給休暇についての定めは労働条件の「絶対的記載事項」であり書面で明示する必要がある項目ですので、取得順序を明確にする場合には労働契約や就業規則に規定として定めておく必要があります。

直近に付与したものから取得させるのであれば、トラブルを未然に防ぐためにも、就業規則に以下のような規定を設けておくことが望ましいといえます
(年次有給休暇の取得順序)
第○条 年次有給休暇は本年度に付与した分から取得するものとする。

就業規則等に特に定めがない場合ですが、これには二つの考え方があります。まず、民法489条2号の考え方に立ち、「当年付与分から取得させるべきである」というものです。繰り越された年次有給休暇も新たに付与されたものも労働者の請求権はどちらも弁済期にあることになりますので、使用者にとって有利な方から弁済する、つまり翌年に繰り越すことができる新規付与分から取得させるという考え方です。
その一方で、消滅時効が先に到来する「繰越分から取得させる」とする考え方です。使用し得なかった年次有給休暇は次年度に限り繰り越されるとされている以上、「休暇を付与するときに与えられる休暇が前年度のものであるか当該年度のものであるかについては、当事者の合意によるが、労働者の時季指定権行使は繰越分からなされていくと推定すべきである」とされており、こちらのほうが一般的で労働者の納得も得られ、合理的なものと解されます。

退職後に懲戒事由が発覚した場合の懲戒処分は可能ですか?

退職後に遡って懲戒処分ができるかという点について、原則として退職し雇用関係が終了している者に対し、懲戒解雇処分の意思表示をしても無効となります。

ただし退職にあたり、不正行為が詐欺によるものであるとのことで退職が取消となったり(民法96条)、錯誤により退職が無効である(民法95条)とされるような場合には、雇用契約は存在していることとなりますので、懲戒解雇は可能になります。
すでに支給した退職金も、労働者にとって不当利得(民法703条、704条)に当たりますから、不当利得返還請求権に基づいて返還させることが可能ですが、この請求権は10年間で消滅となります。

退職金の支給という面からは、就業規則(退職金規程)に「退職後に懲戒解雇理由が判明した場合には支払済の退職金の全部または一部の返還を求めることがある」などの一文があれば、返還を求めることができます。
この一文がないために、多くの会社が過去の裁判で敗訴し、退職金の返還を求めることができませんでした。
予防策として、

1.就業規則で定めることとなっている労基法89条1項3号の2による退職金支払期限を、不正行為などの発見のための調査期間をおいて退職後数カ月位に設定しておく
2.退職金支払後に懲戒解雇理由が発覚した場合に備えた支払済の退職金の返還規定をおくこと
3.懲戒解職処分の公表が社内外に対してあり得ることを明記しておくことも考えられます
4.退職時に退職事由を曖昧にさせないで、明確な文書で書いて貰い、後日の退職者の虚偽申告を立証し易いようにしておくことも必要です

「休日」と「休暇」の違いを教えて下さい。

「休日」とは、所定労働義務がない日のことをいいます。これに対して「休暇」とは、所定労働義務があるが、労働者が労働義務の免除を申し出て、労働義務が免除された日のことをいいます。
すなわち、休日は所定労働義務がないので、そもそも所定労働時間がありませんが、休暇は所定労働義務があり、ゆえに所定労働時間があるのです。

所定労働時間の有無は、例えば割増賃金の算定の基礎となる賃金の算定に影響を及ぼします。
休日が増加した場合には、所定労働時間数が減少することになりますので、通常の労働時間の賃金額は増加することになります。反面、休暇が増加したとしても所定労働時間数に何らの影響もありませんので、通常の労働時間の賃金額には変更はありません。
この通常の労働時間の賃金額がアップするか否かにおいて、休日と休暇の重要な差異があるといえます。

例えば、月給30万円、1日の労働時間8時間で年間休日が100日と120日の場合を計算してみます。(30万円すべてが割増賃金の計算の根拠になると設定した場合とする)
300,000÷{(365-120)÷12(月数)}÷8×1.25≒2297円/時間
300,000÷{(365-100)÷12(月数)}÷8×1.25≒2122円/時間
日数によって割増賃金に差が出る「休日」とは違い、「休暇」はその日数を増やしても割増賃金の単価は上がりません。これは、もともと労働義務があるのを一定の手続によって免除しているからです。

また、年次有給休暇以外の休暇(育児・介護・慶弔 等)の有給、無給は、会社が自由に決めることができます。
その反面、休暇の日数が増えても、年間所定労働時間は減らすことができないという側面もあります。(休日の増加は年間所定労働時間の減少になります)

夏休みや年末年始は「休日」でしょうか?「休暇」でしょうか?
就業規則などの制定や改正の際には、以上のような点、文言に注意してみてはいかがでしょうか。

従業員50人以上になったときに求められる安全管理体制を教えて下さい。

労働安全衛生法により、事業者は常時50人以上の労働者を使用する事業場ごとに、衛生管理者及び産業医を選任し、衛生委員会を設けなければならないこととされています。

さらに,常時50人以上の労働者を使用する事業者は、定期健康診断の結果報告書を所轄の労働基準監督署に提出することも義務づけられています。
なお、定期健康診断は、労働者数が50人未満の事業所も実施しなければならないので注意が必要です。ただし、労働基準監督署への報告は不要です。

工業的業種や屋外的業種などは、上記のほかに、安全管理者の選任、安全委員会の設置も必要です。

事業者は、政令で定める規模の事業場ごとに、都道府県労働局長の免許を受けた者その他厚生労働省令で定める資格を有する者のうちから、当該事業場の業務の区分に応じて、衛生管理者を選任し、衛生に係わる技術的事項を管理させなければなりません。
主な職務は、①労働者の健康障害を防止する措置、②衛生の教育実施、③健康診断実施、健康の保持増進措置、④労働災害の原因調査、再発防止、⑤少なくとも毎週1回作業場等を巡視することがあります。

事業者は、衛生管理者に対し、衛生に関する措置をなしうる権限を与えなければなりません。
事業者は、政令で定める業種及び規模の事業場ごとに、厚生労働省令で定める資格を有する者のうち、安全管理者を選任し、安全に係わる技術的事項を管理させなければなりません。
主な職務は、①危険又は健康障害の防止措置、②教育の実施、③健康診断実施、健康保持増進、④労災事故原因調査、再発防止対策、⑤その他厚生労働省令で定めるものがあります。
衛生管理者及び安全管理者を選任すべき事由が発生した日から14日以内に選任しなければなりません。選任後は遅滞なく、選任報告書を所轄労働基準監督署に提出しなければなりません。

従業員が1分遅刻した場合の取扱いはどうしたらよいでしょうか?

1分の遅刻を30分の遅刻として賃金カットをするというような処理は、労働の提供のなかった限度を超えるカット(25分についてのカット)について、労働基準法第24条に定められている賃金の全額払いの原則に反し違法です。
一賃金支払期における1か月間の遅刻の合計については、30分未満を切り捨て、30分以上を1時間に切り上げる端数処理は認められると考えられます。

また、遅刻に対して懲戒処分であれば法の範囲内で賃金カットが可能となります。労働基準法第91条の「減給の制裁」の範囲内で行うことは、就業規則に定めておけば可能です。ただし、減給は効果的な制裁ですが、運用は慎重に行わなければなりません。

1か月における遅刻早退の総時間数に1時間未満の端数がある場合ですが、「1か月における時間外労働、休日労働及び深夜労働の各々の時間数の合計に1時間未満の端数がある場合に、30分未満の端数を切り捨て、それ以上を1時間に切り上げることは違反として取り扱われない」という行政通達を援用することができると考えられます。

遅刻によって労務の提供がなかった時間とは別に、「制裁」として給料の減額を行うこと自体は、就業規則に定めをおくことによって有効な懲戒処分として認められています。

ただし、給料は従業員の生活基盤を支えるものです。いかに従業員に落ち度があったとしても、無制限に認められていません。この上限につき、労働基準法第91条では次の2つの要件を満たさなければならないと定めています。
(1)1回の額が平均賃金の1日分の半額を超えないこと
(2)1賃金支払期に発生した数次案に対する減給の合計が総額の10分の1を超えないこと

会社に提出した通勤経路以外で起きたけがは通勤災害となりますか?

けがをした経路が会社に提出した通勤経路と異なっていても、その通勤経路が「合理的な経路・方法」であれば、通勤災害と認められる可能性は高いです。

通勤災害を具体的に判断する上で、特に「合理的な経路及び方法」か否かがポイントとなります。「合理的な経路」とは、会社に届け出た鉄道・バス等の通常利用する経路および通常これに代替することが考えられる経路等が合理的な経路となります。
次に、「合理的な方法」とは、鉄道、バス、自動車、自転車を使用する場合や徒歩の場合等、通常用いられる交通方法であれば、平常利用している通勤経路であるか否かにかかわらず、一般に合理的な方法と認められます。

特段の理由もなく著しく遠回りとなるような経路をとる場合は、合理的な経路とは認められません。例えば、健康維持のため、あえて自宅から遠い駅まで歩いた際にケガをした場合などは合理的な経路とは判断されない可能性があります。

自動車等の無免許運転や自動車・自転車等を泥酔して運転する場合は、合理的な方法と認められないこととなります。

会社帰りに買い物をしたり、食事をして帰宅した場合、通勤を「逸脱」「中断」したこととなり、原則として「逸脱」「中断」以降は労災保険でいう通勤には該当しません。
例外的に通勤途上で日用品の購入その他日常生活上必要な行為をやむを得ない事由により最小限度の範囲で行う場合には、「逸脱」「中断」の間を除き、合理的な経路に戻った後は通勤とされています。「日用品の購入その他日常生活上必要な行為」とは、帰宅途中で総菜等を購入する場合、独身者が食堂に食事に立ち寄る場合、クリーニング店に立ち寄る場合、病院・診療所で治療を受ける場合等が該当します。

採用選考時にメンタルヘルスに関する質問をすることはできますか?

企業は、労働者の採用にあたって「営業の自由」(憲法22条,29条)として、「採用の自由」を有しているとされています。
判例によっても、企業には採用の自由が広く認められています。面接時にメンタルヘルス疾患について過去または現在の疾患暦を尋ねることは、場合によっては可能です。
ただし、質問する際は、採否の判断材料にすることもあることを告知したうえ、質問に答えることについて本人の同意を得ておく必要があります。

また、当該本人のメンタルヘルス疾患等の病歴に関する独自調査をすることは、慎重に対応することが大切です。メンタルヘルス疾患等の健康情報は極めてプライベートな問題であり、周辺調査はトラブルの要因になりかねないからです。

原則として、採用希望者の「心の病気」等の病歴を理由に、採用を拒否することは可能です。
また、その前提として、面接等の段階でメンタルヘルス疾患暦の有無を尋ねたり、場合によっては独自に調査をすることも可能です。
精神疾患の状態によっては、遅刻、欠勤、長期の休職に至る場合が多くあります。少なくとも、いわゆる正社員として長期の雇用を予定して採用する場合は、精神疾患の有無、通院歴について調査することは可能です。

メンタルヘルス疾患も、「社会的差別の原因となるおそれのある事項」なので、面接等で質問する際は、理由と目的を明らかにして、本人の同意を得た上で、質問を進める事が必要です。
もっとも、精神疾患の通院歴は、人に知られたくない個人情報でもあります。また、例えば、10年以上前の精神疾患の通院歴について聞く必要はなく、最近、例えば1~2年前から現在までの通院歴や精神疾患の状態を聞けば現在労務の提供をすることができるかを判断することは可能です。
したがって、精神疾患の有無、通院歴については、1~2年前から現在までの通院歴や精神疾患の状態を調査すれば足ります。

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